【車イスで僕は空を飛ぶ】『24時間テレビ』の偽善に埋もれさせるのはもったいない!?  渾身の問題作 [ドラマ]

日本テレビの『24時間テレビ「愛は地球を救う」』は今年で35回を数え、良くも悪くも日本の夏のテレビの風物詩となったといっても過言ではないだろう。日本のテレビ番組では数少ない、障害者にスポットを当てている番組という意味では貴重な存在ではあるが、その扱い方に対して賛否両論あるのは事実だ。
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 この番組における障害者は、たいてい「特別な存在」である。庇護すべきか弱き善良な人間である障害者が、健常者よりもはるかに純粋に頑張っている。「偉いでしょ?」と上から目線で投げかける。もはや逆差別である。とても障害者の方には見せられない障害者番組。それが『24時間テレビ「愛は地球を救う」』の一面(もちろん、この番組は障害者だけを扱ってはいない)である。

 しかし、今年、番組内で放送されたドラマ『車イスで僕は空を飛ぶ』はひと味もふた味も違っていた。とかくこの番組のドラマ枠は、前述のような番組のカラーに沿った“頑張っている”障害者とその家族の安い美談とお涙ちょうだい的な話になってしまっていることが多かったが、本作はそういったチャリティー番組の枠に収まらない傑作だった。

 『車イスで僕は空を飛ぶ』は、車イスの心理カウンセラー長谷川泰三の著書『命のカウンセリング』(あさ出版)を基に、長谷川の半生をドラマ化したものである。プロデューサーは河野英裕。演出は佐久間紀佳。この二人といえば同局の『すいか』『Q10』『妖怪人間ベム』などを手がけたチーム。そこに脚本として寺田敏雄が加わって制作された。主演を務めたのは、ふてくされた感じの若者を自然に演じさせたら右に出る者がいない、嵐の二宮和也だ。

 中学時代から荒れて堕落した人生を送っていた主人公の泰之(二宮)はある日、ケンカの最中にビルから転落し、脊髄を損傷し車イス生活になってしまう。医者から「一生治らない」と告げられ、自暴自棄になっていた泰之だったが、入院中に小児がん患者の大輔(鈴木福)や同じ車イス生活を送りながらも社会復帰を果たすタケヒロ(池松壮亮)、そして売店の店員・久実(上戸彩)などに出会い、次第に心を開き始めていた。

 しかし、そんな矢先、大輔は最期の時を迎えるために転院し、タケヒロも自殺を選び、久実も病院から姿を消した。さらに母(薬師丸ひろ子)は泰之の世話と掛け持ちの仕事からくる過労で倒れ、失踪してしまう。

 「いらねえのは俺だ。生きてる価値もねえやつ。存在自体が迷惑なやつ。それが俺だ」と絶望した泰之は、「どうせなら、みんなに迷惑がられて死んでやる」と決意し、山奥の自殺の名所の崖に向かう。階段で車イスを抱えてもらったり、山道を押してもらったりしながら「迷惑をかけた相手、一人、二人、三人……」と数えながら、その断崖にたどり着く。

 そんな彼の不穏な雰囲気を察知した登山客が、彼の後を追う。崖の先端から海を見つめる泰之。そしてそれを取り囲んで見守る大勢の登山客。どんな説得をすればいいのか分からず、全然説得にならないような素っ頓狂な言葉を投げかける登山客たち。なぜかそのうちの一人は「兎追いしかの山~」と歌い始める。そんな彼らの姿が、あたかもみんなお揃いの黄色いTシャツを着ているように見えたのは僕だけだろうか。

 その光景はある意味、シュールで現実感のないものだったが、妙な力を持ったシーンだった。それこそがフィクションの力(事実に基づいたドラマではあるが、当然この場面はドラマのオリジナルだろう)だ。そんな登山客を尻目に自問自答の果てに「助けてください!」と叫んだ泰之は生き残ったのだ―――。

 これは障害者の物語ではない。「自分が生きること」に悩み苦しむ一人の青年の物語である。それがたまたま半身不随の障害を持っていた、というだけだ。彼の悩みは決して特別なものではない。事実、明るく振る舞っていた久実は「生きてちゃいけないのは私なのに」と自らの壮絶な過去を告白し、泰之の母は電車に飛び込もうとしていたところを保護される。

 ドラマの終盤、泰之は人生に傷つき疲れ果て、死を覚悟した母子に出会う。「これからどうすればいいですかね?」と問われ、泰之は言う。

「『助けて』って言えばいいんじゃないですかね? そういうのって、死ぬほど恥ずかしくて、情けないことなんですけど、結果、死なないから。大丈夫なんですって」

 庇護されるべきなのは障害者ではない。健常者も障害者もない。守られる側と、守る側に分かれているわけではない。誰もが傷つき、お互いが助け助けられながら生きている。『車イスで僕は空を飛ぶ』は、そんな厳しくも温かい現実を、厳しく温かく切り取って描いた、志の高いドラマだった。

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